タコ逃走事件


ある時家に、僕の伯父がやってきました。伯父が家へ来た目的は海へ釣りに行くことです。
今回は漁船でショウサイフグに挑戦です。僕の兄が伯父に同行しました。

釣りをしている最中、彼等の近くにいた釣り客が外道でタコを釣り上げました。
釣り上げた方は早速タコを自分のクーラーBOXへとしまいました。

しばらくすると、兄と伯父が釣りをしている足元をタコが這いずって来たのです。
どうやらクーラーBOXから逃げ出してきたようです。

ふと伯父が足元に目をやると、タコと目が合ってしまったのです。
伯父は兄に言いました。

「タコが俺を見てる!」

伯父と兄は顔を見合わせました。瞬間!アイコンタクトで意志の疎通が行われたのです。


すかさず兄はタコに手を伸ばし、引っ付いている吸盤をはがします。
と同時に、伯父はクーラーBOXのフタを開けていました。

タコを閉じ込め、万が一後でフタを開けられてもいいように、タコの上からタオルをかぶせ
その上に釣ったショウサイフグをのせて2重底の完了!

しばらくして、本来のタコの持ち主が異変に気づいたようです。
「タコが逃げた!タコが逃げた!」

いまさら気づいても後の祭り。
伯父と兄は知らん振りです。


昼頃に彼らは自宅に戻ってきました。
早速獲物のフグを少し刺身にして、
タコは内臓を取って塩もみしてすぐに食べられるように下処理して、
ボールに入れて表の流し台の脇に置いておきました。

食堂にて、ビールを飲みながら本日の収穫について面白おかしく語りました。

「タコが俺を見てたんだよ。」
「持ってってくれって目だったな。」

少々盛り上がったところで、今日の飛び入り主役のタコを料理して登場させようということになり、
タコの処理をした父は僕に言いました。

「流しの横にボールに入れて置いてあるから持ってきて。」

よしきた!早速取りに行きます。が、
どこを見渡しても、ボールは見えどもタコが見当たらない。

食堂に戻り父に伝えます。
「どこに置いたの? ないよ。」

今度は父と一緒に流しへ行きます。
父は空のボールを見てとっさに叫びました。

「タコが逃げた!」

まさかまさか!? 内臓もなくて塩もみまでされたタコが逃げるわけ!?

一同、思考回路をめぐらします。

誰かがふと言いました。「さっき猫を見かけたが…」

それだ! 

家で魚を捌いていると、匂いに引かれて決まって近くをうろつく猫がいたのです。
それは隣の家で飼ってる猫です。

もちろん考慮して、フグは家の中で刺身にしたのです。
しかしタコは別でした。
タコは大丈夫だろうとタカをくくって表で処理したのがまずかったようです。

あいつしかいない!

どう考えてもそれ以外は思い浮かばないのです。
だってタコは下処理されて、逃げる能力は無いはずですから。

「あのタコ引きずって持ってたのか〜。」

泥棒猫をタコ泥棒本人が誉める。

一同は思いました。

「まさか、隣の家で食べてるんじゃないの?(猫でなく人が)」

持っていったのは隣の猫だろうし、それに猫一匹が食べるには、大きすぎるタコだったからです。

結局、もともと我々の口に入るタコではなかったのだ、ということであきらめました。


その日の夕方、隣に住むおばあちゃんが何故か大根を持って家にやってきました。
くれるというのです。

それまでもよく野菜を頂いていたのですが・・・・
いかんせんタイミングが良すぎます。

「ん!? どして!? まさか!? いや・・・・」

家族と伯父は、頭の中であらぬ疑いを隣の家族に着せてしまうことを考えざるを得ませんでした。


盗んだ、もとい、連れて来たタコに振り回された我々でした。。。


問題の流し台。表に設置されている。魚でなくタコであったからと油断した。 悪いことしたら成就しないもんだね。


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